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「仙台大観音のナゾ」カテゴリのアーカイブ

【愛と平和の夢の跡】

かつてある篤志家によって関西全域を望むこの淡路島の丘に、世界の平和維持を目的とした、仏教史上初となる全高100mを超える空前の超巨大大仏「世界平和観音」が建立されたのが1977年。

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後にその巨像は俗に「淡路島平和観音級」といわれ、この国以外では全く役に立ちそうにない大観音建造テクノロジー史が幕を開けた文字通り金字塔とされ、またその年、北方の都市国家センダイで、後にセンダイ大観音の守護者「KASAMA」が生まれたのは、巨大仏史の歴史の必然だったのかもしれません。

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内部には、何故か当時の国産車などを展示。

いわば20世紀後半の人類の英知を保存する、一種のノアの箱舟としての機能を有する世界平和観音。
しかしこの「寺」を名乗っているのに宗教法人ですらない一事業者オーナーの個人的なコレクション博物館機能のために、なぜにそのお姿を観音のカタチとしたのかは、今となっては永遠の謎なのでした。

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かしこのムチウチのために首の固定ギブスをしている、と揶揄される世界平和大観音。

冷戦の終結と1999年7月のアンゴルモアの大王の襲来を乗り越え、バブルと言われた戦国時代を超える激動の歴史を経て平和を手に入れた現生人類にとって、それは負の遺産となりつつあるのです。

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21世紀の人類は、むしろテロとの戦いという20世紀には予想もつかなかった戦いに苦しんでおり、というそのため、平和大観音は冷戦の遺物としてその役割を終えつつ、オーナー死去後も10年以上、その奥様がこの観音を維持。
その奥様も先日ついに亡くなられ、二人の愛の証は相続放棄され、今や行政を巻き込んで、その撤去が地域の一大課題になっているのでした。

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そう、これが20世紀の科学の粋をこらし、人々のアツイ信仰により生み出された読み出された初期型大観音の結末

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前世紀のアツイ想いで建造されるも、その遺物に苦しむという構造は、福島第一原発と似ているのかもしれません。

「ふっ・・・、しょせんは前世紀の遺物。この世界平和大観音増は大観音のプロトタイプに過ぎぬ・・・。大観音は滅びぬ。何度でも蘇るさ。大観音の建立こそ、成功者のだからだ。」

そう強がるカサマでしたが、これが巨大仏の結末云々より、そのお腹部分が剥離して崩壊しつつある自分と同じ年齢の大観音を見ながら、夢はともかくとして、平和は脆く、愛は永遠ではないことに、一抹の寂しさを感じつつ、この地を去るのでした。

今となっては信じられないことですが、かつてこの国は、全国各地で盛んに巨大仏が建造された宗教国家であり、しかもそれらは宗教法人のみならず民間企業の敬虔な帰依の下に、全国各地に作られた時代があったのです。

1970年代より始まったこうした巨大仏建造は、外来の能州虎陀無栖による末法思想を背景に、1980年代を経てその盛り上がりは1990年には最高潮を迎え、鳥みたいな名前の一宗教法人による毒ガス攻撃事変により突如として幕を下ろしたのです。

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しかしこれら大観音群が、1999年にマクロの空を貫いたアンゴルモアの大王の侵攻を阻止したことは、隠された人類史の一つとして関係者の間では良く知られた事実。

後世おそらく100年後、この様子を歴史的に総括するとき「20世紀後半、極東の列島国家がその国力最盛期に1,200年ぶりに大仏建立ブームが起こり、人口1億2千万人に対して宗教法人登録信徒数2億1千万人という、宗教普及率175%の驚異的な宗教国家が誕生した。人々は建造した巨大仏をを『バブルの塔』と呼んで崇拝したが、神の怒りに触れて建造主体は悉く滅亡した。」という客観的な事実により、その宗教国家の歴史が語られることになるでしょう。

決して民間企業の節税対策だった、などという歴史秘話は教科書には載らないのです。

そしてその歴史的なピークを象徴する「生きた遺跡」こそ、古代ローマ帝国の全人口の半分に達する、人口3000万人を擁する人類史上空前の都市国家「TOKYO」の守護神、首都防衛大観音『USHIKU-BUDDHA』(牛久大仏)

2015年5月、お昼から始まる友人の結婚式前に早起きしてはるばる牛句まで行き、ついにその威容を見に来る機会に恵まれたのです。

北の玄関口上野からJOBAN-LINEに乗って約1時間。そこからさらにバスで約20分かけて突如現れた牛久大仏を見て

「大きい・・!」

の人々の第一声。人類の科学は、信仰心は、このような巨大なものを作ることができるというのか・・・。

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純粋に巨大な建造物は、人類に感動を引き起こすもの。

さらに、俗に「ナカの仙台、ソトの牛久」と、まるでホッピーの注文のように言われるように(っていうか言ったのはカサマですが)、牛久大仏の特徴はその外観の素材。全て青銅版でできており、おおよそ100年かけて我々が「ブロンズの色」として良く知る緑色に代わり、色の経年変化を1世紀にわたり楽しむことができるのです。

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現代科学(バブル期)の粋を凝らして建造された仙台大観音像に対し、牛久大仏の構造とコンセプトは極めてシンプルかつ重厚。無駄に壮大ならせん階段がある某大観音と違い、地上階と高層階を単にエレベーターでシンプルにつなぐのみ。実際、表面の青銅版は中央から伸びる鉄骨に固定されているだけ、中身はほとんどスカスカというハリボげふげふ。。

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挙句の果てに、上空は成田空港の空路に当たるらしく、どう考えてもこの大観音像を目標に飛行して、その上空で進路を変えている航空機が頻繁に通過します。

やはり明らかにこの牛久大仏は首都機能の一部・・・!

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仙台大観音像が松島基地のブルーインパルスの地上目標であるのとは、訳が違います。

流石は首都防衛大観音・・・!

そして、中はこの手の宗教施設にありがちな無駄な壮麗さ。

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首都防衛のために数十人が一斉に写経をする施設に至っては、感動すら覚えました。「常時臨戦態勢」・・・!

しかも高層階では「冬物処分セール」が行われ、現世の幸せもサポート

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人もまばらで人類滅亡を予感させる北方の大観音と違い、人も多くアットホームな雰囲気。滅びゆく人類文明の姿を予感させるものは、(残念ながら)何もなかったのでした。

こ、この遺跡はまだ生きている・・・!

「よし、ならば始めるか・・・」

この牛久大観音が問題なく稼働していることを確認し、意を決しカサマは牛久大仏の前にコーラを供え、気合を入れ始めます。

こおおおおおおおおお・・・!

カッ

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「はあ、はあ、『首都圏コーラ消毒の法』を施した。コーラの炭酸効果により間もなく首都圏の花粉症の季節も終わるだろう。ま、私がやらなくても、どうせ季節的には花粉症は終わるだろうが。」

それはともかく、何かがおかしい。

休日の午前中だというのに、とにかく人が多い。いくら大観音好きの日本人といえども、多すぎる。仙台大観音や世界平和大観音と違いすぎるではないか。

周辺を散策してみると、駐車場は車であふれ、北関東を中心に神奈川県や福島県のナンバーも見られます。この事実は、この大観音が北関東のドライブコースの経由地として確立しているだけでなく、広域からの何かしらの目的を持った人々が集まっている可能性があります。

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しまいには外国人の小団体も受付並んでおり、本施設がもはやグローバル化した聖地になりつつあることを示しています。

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そう、牛久大仏は「流行り神(ハヤリガミ)」

しかし駐車場を超えると、果てしなく続く共同墓地が隣接していることに気づきます。

「そうか、そういうことか・・・!何てこった。謎は全て解けた。

「牛久大仏」。その本質は36万平米という、人類屈指の巨大公園共同墓地の「民族の象徴」

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その広大な墓場を歩きながら気づいたのです。これは極めてマーケティング的施設・・・ッ!

すなわち、「毎日が誰かの命日」

永遠に途切れることのない顧客。マーケティングの半永久機関

そう、牛久大仏の真の目的は首都防衛ではなく、墓場を「聖地」と称して観光地化する、古くて新しい集客装置・・・!

仙台大観音が作り手のほとばしるパドスを源泉に作られたプロダクトアウトな巨大物に対し、この牛久大仏は死人が増加する我が日本の高まる需要に応えたマーケットイン

こ、これが21世紀型の未来志向な集客。

これが仏教伝来より1400年の日本の歩んだ歴史の結末なのか・・・!

巨大霊園建設ブーム、来る。

こうしてカサマはこの国の安全保障上重要な秘密と来るべき大仏建立ブーム到来を予感し、友人の結婚式前に礼服で牛句大仏にやってきた自分の見識を疑いながら、クールに牛句を去るのでした。

西暦2015年1月17日 字中山東 アレクサンダータケダ夫妻と共に

仙台の守護神「仙台大観音像」の中枢にたどり着いた一向。その「背骨」には、108体の小型観音が即応弾として装填されており、仙台市民のリア充の幸福と、来るべき決戦に備え(供え)られているのでした。

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良く見ると、108体の台座には個別にお布施投入口が装備されており、自分の好みの観音にお金で投票できるというシステムに見受けられます。こ、これは21世紀初頭に猛威をふるったアイドルオタク集金システム「AK47」(だっけ?)。

既に20世紀に予言されていたとは・・・。

そして集金システムを軽く一瞥すると、ある一体の前で意を決したのでした。

「では始めるとしよう」

「・・・なに?」

「究極奥義『仙台大観音リア充の法』・・・!」

「!!」

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ぬおおおおお!

カッ!

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「はあ、はあ、皆が幸せになる呪いを再びかけた。これで1週間は持つはず・・・。」

「意外に短いな。」

「しかし精根尽き果てた。では降りるとしよう!」

地上に向かって降りる一行。

途中には、この施設が作られた理由が書かれたロゼッタパネルが設置されています。

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「読める・・・、読めるぞ・・・!

呪文のようにしか見えないお経や仏教用語や難しい漢字満載よりも、英語の方が理解できるという皮肉。しかしここは、建造当時よりは自分の英語力が上がっていることを素直に喜ぶとしよう。全部大文字で読みにくいですが。

そう、この仙台大観音像。

無駄に英語案内が充実しているのです。

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これは好事家の外国人の友人が来仙の際には、良い案内先が見つかったというもの。もっとも、全世界に無用な誤解を拡散してしまう恐れがありますが。

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そして地上に降りた一行は、仙台大観音の地下に埋められたタイムカプセルを確認。

12個のタイムカプセルを10年ごとに一つずつ開け、再びその時代の品々を埋めてローテーションするこの計画。そう、仙台大観音の重要な機能の一つには、核戦争により人類文明が失われようとするとき、その人類の英知を大切に護り、継承することという重要な役割があったのです。

中小企業白書とファミコンを未来人のために残した、20世紀人たちのかけ・・・。

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しかもドラクエ2とドラクエ4はあるのにドラクエ3がない

前世紀に考古学者を志した私の推理では、ドラクエ3は神タイトル

おそらく当時の子供たちが現世の幸せに抗うことができず、流石にドラクエ3をタイムカプセルに入れるのはもったいな・・・躊躇されたに違いない、などと、当時まさに少年であったカサマは考古学的に推理するのでした。

2012年にふたたび埋められた21世紀初頭の知恵と技術

おそらく時期的に震災関係のものもあると思いますが、次に開けられるのは120年後の2132年。

そのころにそもそも大観音があるかは別として、発掘した22世紀人たちはこの震災をどのように記録し、その復興のプロセスをどう評価しているのか大いに気になるところです。

まあ、たぶん歴史の教科書に「2011年には日本東海岸で巨大津波が発生し、のちの世界大戦の遠因となった」と1行ぐらいで説明され、我々の悪戦苦闘の物語(サーガ)は省略されると思いますが。

などとおセンチになったところで立ち去ろうとするとき、ふと目の前のほとんど廃墟の商業施設が目に留まりました。

恐る恐る侵入するカサマ。

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そこで見た観音模型。

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こ、これは観音諸元表・・・!

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  • ウェストサイズは約51mで横綱曙関の約30倍
  • 足の長さは約35mで一歩で30m歩行可能
  • 足の大きさは約15.3mでジャイアント馬場の40倍
  • 顔の長さは約10mで奈良の大仏の2倍
  • 目の長さは2mで人間の肉眼の250倍の集光能
  • 手の長さは約20mで奈良の大仏の約8倍
  • 掌の大きさは長さ8.8m 幅4.6m 畳24枚

「くっくっく・・・ははは・・・はーっはっはっはッ!」

そうか、そうだったのか・・・。

やはり歩行機能が実装されていた。

そして仙台大観音は目からビームを発し、仙台を守護するという怪情報・・・。

これは太古の20世紀人たちが「250倍の集光能力」を拡大解釈したもの・・・!

都市伝説はこの石版から来ていたのか・・・!

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こうして20世紀の隠された歴史を発掘し、その謎解きに満足しつつ、カサマはクールに観音を去るのでした。

西暦2015年1月17日 決戦兵器「仙台大観音」内部

「大佐、ここから上に上がれます!」

登竜門が冬季閉鎖中であり、一般人はおろか信者も先に進めず、結局仙台大観音からは冬には誰も立身出世のご利益には与れないことが分かったところで、観音の脊髄の中を貫通するエレベーターで上階を目指すことになりました。

最上階。

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エレベーターで行けるそれは、高さ100mもあるのに14階建ての12階部分に当たり、高さ68m地点、海抜249m。長年に渡り多くの人々に「なんだもっと上にいけないのかよ」と失望を与え続けたこの仙台大観音。しかし、地元中山地区では13階と14階部分にはコックピットがあり、有事の際には人が乗り込んでマニュアル操作で操縦されることは公然の秘密。来るべき宇宙怪獣との戦い備えた決戦兵器「仙台大観音」の国家機密区域に、民間人が侵入できるわけがありません。

そして普段はこの観音の心臓部の秘石の間で制御され、いつの日かこの地に仙台大観音を動かす勇者の来訪を静かに待っているのです。

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ロトの剣。

男子たるもの、これは抜かざるを得ないッ!

しかし、勇者たちの前には、強大なる結界が張られていることが多言語で警告されています。

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"You can not enter into this

Alarm is activated"

どうも日本語に書いてある内容と若干齟齬がある合理性が垣間見られますが、やがて現代文明が滅亡した後、仙台大観音遺跡を発見する未来の探検者と考古学者たちは、このロゼッタストーンの翻訳に大いに苦労するに違いありません。

「合掌 = Alarm」とか未来人たちが誤訳したらどうしよう、と思うと、ワクワクして寝られませんいや、これは21世紀人類による、未来への罠なのかも知れません。

こうして主として英語の警告に恐れをなした我々一行は、この部屋を後にした瞬間、驚愕の声を上げたのです。

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「な、なんだこれは・・・。こ、これが仙台大観音の『中枢』・・・?」

「観音の『背骨』さ。108体の小型観音によって構成された、人類最大にして最強の霊力増幅装置・・・」

「あれが全部小型観音だとッ!?こ、こんなものが地元にあったとは・・・」

下から吹きすさぶ不気味な低温の風の音が洞内に響き、我々の足音はこだまします。

この無駄に壮大な空間。

そう、これこそが

「バブルのチカラ」

・・・!

「うわーい、うわーい、かんのんさまー、かんのんさまー」

突然、T田氏の嫁が狂ったように螺旋階段を、まさかのアニメ声奇声を上げながら下りて行きます。

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「しまった、このサイケデリックな空間と観音の怪しのチカラで、心を惑わしたかっ!」

「いや、いつもと変わらんだろ」

「い、いかン!おい、嫁ッ!まて、そっちに一人で行ってはダメだ!」

「はっはっは、どこへ行こうと言うのかね?

嫁を追いかけて、60mの壮大な吹き抜け空間の螺旋階段を降りる一行。

その後、内部では究極の秘法が行われ、まだ建造から25年しかたっていないのに前世紀の恐るべき発掘品を目の当たりにすることになろうとは、まだこの時は知る由もなかったのでした。

(つづく)

―――――――――西暦2015年1月17日 字中山東――――――――――

「大佐・・・、これは一体・・・」

「仙台大観音の中枢だ。周りの外観などガラクタにすぎん。バブルの科学力と経済力、巫力、そして夢と希望は全て観音の内部に結集しているのだ。」

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20年ぶりだな・・・。

この禍々しい通路。このスターウォーズの銀河元老院の議場のような螺旋階段。この税金対策のために100mなのに14階までしかいない構造。この無駄に造詣が手が込んで美しい108体の観音たち・・・。

大仏か・・・、何もかもみな、懐かしい・・・。

「見てください、大佐、『登竜門』です!!」

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カサマが感傷に浸る間もなく、「登竜門」の声が内部にこだまします。

「立身出世への門」という身もふたもない朱筆された文字を一瞥しながら、全てを知っているかのようにカサマは冷静に言うのでした。
「ここから先は信者しか入れない聖域なのだ。」

ああ観音よ、私は帰ってきた
カサマは一人、往時と変わらぬ、しかしどこか寂れた観音内部を見ながら、人生で最もリア中だった青春中学時代の記憶を反芻するのでした。

◆◆◆●◆◆◆

仙台大観音。

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甲子園を目指す某高校は生徒が必ず祈りをささげ、某川内付近の高校の物理部では文化祭の後に「観音参り」と称してわざわざ「勝利の歌」を歌いに行くなど、センダイ市民の一部には割と「不敗の神」と言われる霊験あらたかな観音様。

事実、21世紀初頭、サッカーワールドカップが宮城スタジアムで開催された時、ロイヤルパークホテルに泊まったチームは敗退したのに対し、観音隣の「ニューワールドホテル」に宿泊したチームが尽く勝利するなど、驚くべき実績がありました。

我が日本代表が初のベスト16進出の中、トルコ代表とのベスト8を宮城スタジアムで争った2002年。

多くの日本国民がベスト8進出を確信する中、日本代表がロイヤルパークに泊まり、トルコ代表チームが観音隣のニューワールドホテルに宿泊しているという事実を知っていたセンダイ人の全てが、日本代表の敗北を予感。多くの人々が仙台大観音にトルコ代表チーム敗北の呪いをかけたのでした。

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しかし結果は日本代表の敗北。

それ以来、仙台大観音の恐るべき巫力は世界に知られるようになり、むしろ仙台大観音には「勝利の呪い」や「幸福になる呪い」という、恐るべき秘法が行われることになったのです。

もっとも、偶像崇拝を禁じるムスリムの皆さんが多いトルコチームを、人類最強の偶像である仙台大観音の隣のホテルに試合前に宿泊させるのは中々の配慮ではありますが。

それから10年後、リア充ハンターとして立派に育ったカサマは、ある日思い立って試みに仙台大観音に「世界が幸せになる呪い」をかけたのです。

結果、3か月以内に知人友人が5組、カップル成立はおろか結婚又は同棲を開始するという、恐るべき成果が発現ッ!

一組は7年越し、一組は9年越し、もう一組に至っては14年越し。

これぞ真の「奇蹟」

そのお礼参りとして、仙台大観音の幸せになる呪いにかかったリア充友人新婚婦を引き連れて、仙台大観音にお礼参りをすることにしたのでした。

しかしそのリア充新婚夫婦が見たのは、確かに生きていたはずなのに見たことがない、恐るべき20世紀の遺産だったのでした。

(つづく)

―――1993年 仙台市北西部 空中都市ナカヤマ高原―――

 
電波障害を逆手にとって、大仏頭部アンテナと各家庭の受信アンテナ設置という科学と霊力と財力の粋をつくすことで、神とニンゲンの絆の具現化に成功した「仙台大観音」。
 
しかしその評判は極めて悪く、すでに建立より1年が経とうというのに、地域住民の誰も「仙台大観音」どころか「観音」とすら呼ばず、相変わらず「大仏」と呼び続けるありさまなのでした。
当然カサマの
「住んでいるところを説明するのに便利ではないか。大仏の近くに住んでいます、と言えばセンダイジンなら誰でも分かる」
という合理的な主張は受け入れられるはずもなく、いちいち仙台大観音を擁護するカサマは大仏に魂を売った俗物という扱いを受けるのでした。
 

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大仏が俗物。
我が級友たちは、どうも根本的に何かが間違っている・・・。
巨大建築に憧れ、神仏にすがるのは権力と繁栄の本質ではないか。決してこれを責められようか、いや責められまい。
 
しかし、どうにも間違っているのは大観音の方だということが、まもなく歴史的文脈から指摘されたのです。
 
ある日のこと、生徒会役員であったカサマは、夜間残業の後に顧問でもあった社会科教員となぜか神学論争を繰り広げておりましたが、その際、驚くべき事実を伝えられたのです。
 
「お前の愛する大仏は、奈良の廬舎那仏のように災厄の象徴になるかもしれないぞ。」
「どういうことですか、先生
「奈良の大仏建設で、低賃金の各地域からの派遣労働者の増加と、水銀中毒による労働災害が発生。平城京は王道楽土どころか餓鬼と魑魅魍魎が住み着く魔都と化していたのだよ。」
「・・・。」
「その後莫大な経費をかけた首都造営は滞り、数十年かけて経済は崩壊、国家財政は破綻。実は平城京は完成せず、84年で遷都するわけだ。その意味でもあの奈良の大仏は、繁栄の象徴ではなく、時代の終わりの象徴なのだよ。」
 
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「先生はあの大仏の出現により、この電子立国日本が低賃金の派遣労働者であふれ、TOKYOの土地代だけアメリカ全土を買えるほどの経済大国日本の経済が数十年停滞し、先進国で最も優良な国家財政が破たん、揚句この偉大なるセンダイが魔都とというのですか!センセイ!!」
「この仙台大観音が、センダイ、いや我が国の栄華の終わりの象徴にならなければよいのだが・・・。少なくとも首都機能移転はなしだな。」
 
センセイの不気味な予言。
 
しかし程なくして、その予言を象徴するかのような、不気味な噂と事件通称「黒い涙」事件が仙台大観音に降りかかるのでした(つづく)。

―――1993年 南中山中学校1年1組―――

「おい、最近うちのテレビの画像が乱れるようになったんだが。」
「お前の家もか?なんか最近、特に仙台放送の映りが悪いよな・・・?うちの南中山三丁目西町内会でも、そんな話が出てて、日に日に画像が悪化しているんだよ。」
「そうか?南中山一丁目はそうでもないが・・・。」
仙台大観音像の建造が開始されて、はや数か月。
黒い脚組に囲まれた建造物は日々高さを増しており、あっという間に仙台全域からでも建設の途中経過が見られるほど成長した「大仏」。その様子は大仏建立というよりは超弩級宇宙戦艦の建造のようであり、天高くそびえる姿は何とも言えない重厚な美しさを感じさせていたのでした。
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当時南中山中学生1年生だったカサマはその様子を見て一人胸を熱くする毎日だったのですが、ある日、学内では南中山全域で広がるテレビ画面の乱れという怪奇現象が話題となったのです。
しかし少年たちはみな、うすうすその原因に気づいていました。
「おい、カサマ。世界の大仏に詳しいお前は、何か心当たりはないか?」
よせやい、私が詳しいのは弘仁貞観文化時代の大仏だけだよ。それはともかく、電話級アマチュア無線技士である私の、あくまでも仮説なんだが・・・、
あの作りかけの大仏が・・・じゃなかった電波を乱している気がするんだ。」
「なんだってー!」
驚く一同。
しかしその推測は当たっていたのです。
大仏の背後の地域で電波障害がおこっている事実は早々に報道されるようになり、単なる興味の対象の大仏は、地域住民に護国の安寧を与えるどころか、テレビが見られなくなるを一身に浴びることとなったのです。
永遠の娯楽の王様であるテレビが見られない。
これは文明生活には致命的でした。
そして大仏開眼をもくろむフタバカイハツが考え出した解決策は、驚くべきものでした。
(1)大仏の頭部にテレビ電波中継用アンテナ設置
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そして
(2)全戸中継電波受信用アンテナ設置
大仏の北側斜面に位置する約5,000世帯の全てに、全てフタバカイハツの費用もちで受信用の小型アンテナが設置されたのです。
あの大仏の為に。
まさに「ザ・ニューワールド!!」
大仏は霊的な機能だけではなく、科学的な機能も実装され、霊と科学が高次に融合した人類史上初めてにして最恐の偶像が町内に完成したのです。
テレビ電波どころか、何か違うものもあの中継アンテナを介して各家庭に提供しそうです。
そもそも宗教も電波メディアも人を洗脳する意味では同じ・・・!すなわちあの大仏は、人々の心の中に地上の楽園を植え付ける装置!
その恐るべき事実に気づき、一人興奮するカサマ。
しかし、友人たちの反応は違ったのでした。
「ご利益どころか電波障害を引き起こすとは。」
「いやむしろ、大仏自らデンパを発するようになるとは」
「しかし、なんとサイバーな。」
「これが21世紀の大仏なのか・・・」
「だいたい常に頭からゆんゆん電波を出していたら、我々に何か健康被害とかないのか?」
「まて、観音の頭部アンテナと各家庭の受信アンテナは、神と我々のキズナなのだ。」
カサマはこう意味不明に答えるのが精いっぱいなのでした。
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 神とニンゲンの絆
電波ゆんゆん。
お隣福島県の某高校の校歌が由来という無線好きの電波少年(後の某A大学校理工学部電波工学専攻である)にはよく知られた事実を心の中で反芻しながら、完成した大観音の前途多難を予期し、一人カサマは落涙するのでした。

―――2011年3月26日 被災地仙台市若林区マンション、通称「王の丘」―――

「む、ニッカウヰスキー『宮城峡』と焼き肉用の肉ですか!よく手に入りましたな。」
「ははは、調達には自信があります。」
東日本大震災4日目には、57%が津波浸水した若林区にもかかわらず、奇跡的に電気、水道、プロパンガス、通信の全てのライフラインが回復した鉄壁の防御を誇るカサマの住む対災害最終防衛拠点マンション、通称「王の丘」には、インフラの回復しない北部ナカヤマ地域から友人たちが、週末疎開を行う状況となっておりました。
食料やガソリンの調達はいまだ困難なものの、徐々に人々は日常を取り戻そうとしている最中。その中でもライフラインが全て回復した「王の丘」は流石に稀有であり、いまだライフラインが回復しない地域の友人にとっては、風呂にも入れる「王の丘」は、まさに地上のオアシスだったのです。
「さすがは王家の谷。」
「いや『王の丘』だ。」
「しかしもう2週間もたつのに、あの辺りはまだ電力が回復していないんですね・・・」
市中心部が、人々を励ますかのようにすでに煌々と文明の明かりで夜を照らす中、ふと「王の丘」から東に目をやると、はるか先の海辺近くにはまだ深い闇が広がっています。
カサマはため息をつきながら答えました。
150秒間も海溝崩壊による、マグニチュード9.0の地震と大津波に襲われたのだ。確かに都市ガスはこの地域でもまだだが、市街地中心部の崩壊がなかっただけでも幸運だよ。」
「津波はどのあたりまで来たんですか?」
「そこの広瀬川を自転車で15分ぐらい行ったところに、爪痕があるよ。船が土手に突き刺さっている。すぐそこの高架線路には、MAXやまびこ1392週間そのまま放置さ。」
「よく王の墓は無事でしたね。」
「いやだから王の丘だ」。
非日常の風景が日常と化した被災地仙台。
そんな中、「王の丘」では豪気にも焼肉パーティーをやろうということになったのです。
火力調整不能な安物一人焼き肉用のホットプレートをつつく3人。
中学時代以来の友人たちと缶ビールを飲みながら、自分らが子供のころ、かつての仙台が平和だった遥か昔思い出で大いに盛り上がったのです。
焼き肉.JPG
「ところで」
お酒が適度のまわったころ、突然カサマは友人たちを前に、不思議な話をし始めたのです。
「小さい頃さ、仙台に危機が訪れたとき、あの大観音が動いて街を救う夢をよく見たものさ。」
「はあ?」
「北部に七ツ森ってあるだろ?」
「あのダイダラボッチ7つの山を作った伝説のことか?」
「そう、ダイダラボッチが再び現れたら、ダイダラボッチと観音が格闘して、最後には観音がダイダラボッチを撃退するのさ。海にゴジラが現れれば、観音の目から冷凍光線を発射し、女川原発に危機があれば足元のロケットエンジンが起動して炉心を抱えて宇宙に飛んで、自爆するのさ。」
「鉄腕アトムみたいだな。上昇中に放射性物質をばらまきそうだ。だが確かに観音は仙台の守護神・・・!福島原発は仙台から100kmも離れて放射能の影響は直ちにはないから、観音は動かなかったのかな?まあどのみち、地震や津波には無力だろうて。」
「津波の直撃を受けた釜石の大観音も、動いたとの報告はない。大津波を冷凍光線で凍らすとか、観音的に街を救う手段はあったろうに・・・。」
天災に大観音は無力なのか・・・。」
震災翌日大観音.JPG
震災翌日に何もなかったかのように鎮座する仙台大観音の様子を超望遠撮影
多額の予算と人々の繁栄への願いが込められた仙台大観音。
「しかし今必要なのは大観音ではない。・・・食料だ。」
「食べ物」こそが人間にとって最も必要な要素・・・!
震災に大観音が役に立たないという当たり前の現実をかみしめながら、今や最大の贅沢となった焼き肉を黙々と食し、嘆息するのでした。

―――1980年代半ば 仙台市中山地区―――

「今度近くに100mの巨大大仏ができるらしい」

今を去ること20年以上前、カサマが住んでいた天空都市「ナカヤマ」地区では、そのような噂が絶えませんでした。
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100mの大仏
ばかな、小学館の図鑑で見た奈良の都の盧舎那仏像ですら15mほどだったはず。それをはるかに上回る100m規模とは!
いったい何の目的で。
しかも話はそれだけにとどまらず、千葉ディズニーランドがオープン間もない当時、ニホン最大級の屋内遊園地の建設が、巨大大仏に隣接する地域で計画に上がっているというのです。
これで永遠のライバルである、同じように天空都市に住むあのやんやんややんヤギヤマの連中を、いよいよナカヤマ人が屈服させる時が来る!ナカヤマに住む子供たちは、大いに狂喜乱舞したのです。
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古くより蝦夷の聖地として知られ、仏舎利塔を頂点とした霊験あらたかなこの国見・中山地区。そんな神聖な地に、かつては奥州王伊達政宗が鷹狩りに興じ、この山中の高台から国家に思いをはせたと言います。
そしてその聖地ニホン最大級の屋内遊園地(繰り返し)とともに、20世紀の科学力と誣力の粋を尽くして100mの超巨大大仏が建設されようとしているのです。それもフタバソウゴウカイハツという地元のたった一企業の力において
兄弟四人が全員フタバヨウチエン出身のカサマ一族としては、誇らしい限りです。
しかも、この大仏の高さ100mとは、市制100周年を記念したというではないですか。
何と殊勝な。
おそらくこの超巨大大仏は仙台開闢以来最高の栄華を象徴する、偉大なる像となるでしょう。20世紀後半にこの地に「王道楽土」が現出したことを、人々は永遠に記憶するのです。
そう、かつて平城京にて当時の科学力と財力と人民の熱い思いが込められた盧舎那仏像のように。
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とにもかくにもナカヤマ地区では、その時期は町内会の会合では役員が「大仏」の経済効果を語り、主婦は藤崎スーパーで「大仏」のご利益を語り、フタバ幼稚園生は電力研究所の実験施設に侵入して、科学と神仏の最終戦争について、みな熱く語ったのでした。
・・・
しかしその王道楽土が、後に「バブル」という、古代バビロニア関係の何かのように呼ばれ、旧約聖書のソドムとゴモラの時代のような享楽世界として扱われ、そのあげく、まさかこの大仏ニホンでもっとも有名なバブルの象徴の一つになろうとは、このとき人々は知る由もなかったのです。
そう、実際にアレの影響が始まるまでは。
(つづく)

---2001年 宮城大学内レストラン---

「センダイジンの気質はあの巨大な大観音像に集約されているように思うんだよ」

三井物産戦略研究所(当時)所長の寺島実郎先生は、突然学生たちを前に切り出しました。月2回宮城大学で行われる寺島先生の授業の後に、学内レストランで聴講した学生とのコミュニケーションを取るのが恒例となっており、二十歳そこそこの学生たちは団塊の世代最強の論客から薫陶を受け、一方で寺島先生は「今どきの若者」という便利で怪しげな単語を実地で検証する機会としていたのです。

「講義でもちらっと触れたが、君、あの観音をどうみる」

突然の先生からの問いに、学生たちは緊張しながらも語気を強めて答えます。「怖い」「景観を破壊するひどい建築」「バブルの塔」「仙台の恥」「むしろ邪教」。ありとあらゆるネガティブな意見が並びます。

「そうかね・・・」

寺島先生はなぜかその時は自身の意見は出さず、深く椅子に座りなおすと、コーヒーをゆっくり飲みながら、「ぬう」と低い声で唸り、ただ学生を見渡すのでした。

グローバルなビジネスや世界情勢を常に鳥瞰する、百戦錬磨の第一級のビジネスマンすら理解に頭を抱えてしまう「仙台天道白衣大観音」通称「仙台大観音」。

そのやりとりの様子を見ていたカサマは、一人偉大なる仙台大観音の建立当時を思い出し、なにやらいずい気持ちになりながら、「バブルは遥かになりにけり」の感を強くするのでした。 

(つづく)
 
P1010330s.JPG
 
写真は愛宕神社から超望遠で撮影した中山高原。後ろの光の筋は泉ヶ岳スプリングバレースキー場の灯りです。

この記事を書いた人

笠間 建

笠間建 (コミューナ・トランスレーション・デザイン有限責任事業組合)

事業連携担当。
プロジェクトエンジニアを僭称(?)中。PEは本来は工場オペレーション用語ですが、調査分析・事業企画・計画・実行など、プロジェクト全般を広義に「エンジニアリング」してきたキャリアパスで、他に良い表現が見つからないので。2008年9月から2010年8月まで、社会人学生として東京で貧乏大学院生生活を送っていましたが、2010年9月に無事修了して仙台に戻ってきました。
趣味は自転車、旅行、写真。

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